一分小説
IPPUN SHOSETSU

六十秒だけ、
泣いていい。

いまの気分をひとつ選ぶと、そのための短編がひとつ。読み終わるのに、ちょうど一分。泣ける日のための小説アプリです。笑える日と、怖い日にも効きます。

App Storeに出る日、一通だけお知らせします。それ以外は送りません。

画面はいまのビルドのものです。


まず、一篇どうぞ。

上の画面のつづき、ではなく全部です。読み終えてから、待つかどうか決めてください。

長靴の跡

泣ける 舞台・家

全文 ― 約一分

雨の玄関に、母の長靴が並んでいる。引っ越しの荷ほどきの途中、段ボールの底から出てきた。もう三年、履く人はいない。

深夜のキッチンで一人、伊都子は水を飲む。台所の窓に雨粒が並び、換気扇が低く回る。荷物はまだ半分も片付いていない。

長靴の底に、小さな紙が挟まっている。引っ越し業者の伝票かと思い抜くと、母の字だった。「歩くの、好きだったね」とだけ書いてある。

娘の運動会の日、雨で中止になった年がある。母はそれでも長靴で迎えに来て、傘の下を一緒に歩いた。あの日のことだと、すぐに分かる。

伊都子は長靴を玄関に戻す。捨てるつもりだった箱を、もう一度台所の隅に置き直す。雨音の中、しばらく立ったまま動かない。

文 ・ 雨音 真琴 雨の匂いの中に、言えなかった言葉がある。

泣ける日ばかりでは、ないので。

気分は十種類。開いた日のあなたに合わせて、毎回書き下ろされます。

泣ける切ない儚い 懐かしい温かい穏やか 甘い笑える不思議怖い
笑える 終電のイヤホン 舞台・通勤

斜め前の男が、イヤホンをつけたまま口だけ動かしている。漏れる音は英会話教材らしい。「グッド モーニング。おはようございます」――夜十一時に、おはようございます、である。次の駅で男は目を開け、イヤホンを外してひとこと呟いた。「明日は、朝から使える」

結びの一行は、アプリで。

書き手が、十人います。

ムードごとに専属の書き手がいて、最後の行に署名が入ります。読み終えたら「この作家でもう一篇」もできます。

雨音 真琴泣ける

雨の匂いの中に、言えなかった言葉がある。

藍川 葉切ない

藍が滲む刻に、渡れなかった橋がある。

白鷺 ふみ儚い

ふれれば消えるものだけを、掌に。

深見 千夏懐かしい

あの夏はまだ、路地の奥で待っている。

桜井 紬温かい

ほどけた糸を、もう一度結び直す夜。

夕凪 想穏やか

波も止まる夕べ、時間だけがやさしい。

綾瀬 椿甘い

花がひらく速度で、恋も、ゆっくりと。

黒崎 すずな笑える

真顔のまま、世界はときどき転ぶ。

霧島 蓮不思議

霧の向こうで、世界が少しだけずれている。

月城 透怖い

月の明るい夜ほど、影は濃くなる。

奥付

文庫でいう、いちばん後ろのページです。

長さ一篇六十秒で完結。時間のある夜は、三分・五分の版も。
読みかた画面は縦書き。目を閉じたい夜は、朗読で聴けます。
舞台通勤、学校、家、カフェ、深夜、異世界。今日いた場所か、行けない場所を。
気分十のムード。選んだその場で書き下ろし。
書き手十人。署名入り。

作っている人

このアプリは、ひとりで作っています。決めていることは二つだけ。読む人の一分を借りる以上、一分で必ず終わらせること。それから、メールを一通しか送らないこと。

泣ける話から始めたのは、六十秒で泣けたら、その日はもう充分だと思っているからです。

朝戸 大祐

では、その日に。

App Storeに出る日、一通だけお知らせします。それ以外は送りません。